公明新聞2011年11月6日掲載分

サンデー・リポート/野生動物から農作物守れ/鳥獣被害対策本部を新設/防護柵設置の指導など「戦う集落」育成へ/全国初の県内一斉捕獲も実施/大分県

玖珠町内の集落を訪れ実態調査

近年、イノシシやシカなど野生動物による農作物被害が全国各地で深刻な問題となっている。こうした中、大分県は今年8月、従来の鳥獣被害対策の強化を図るため、「鳥獣被害対策本部」を新設し、関係機関挙げての対策を講じている。公明党大分県本部(竹中万寿夫代表=前県議)も、被害軽減の成果を挙げている同県玖珠町内の集落を訪れ実態調査をするなど、鳥獣被害対策の拡充に向け奮闘している。
大分県の被害の現状と具体的な取り組みを紹介する。

「稲が一面丸ごとやられてしまった……」。大分県玖珠町戸畑の山中、山の口集落で農業を営む高倉三蔵さんは、イノシシに荒らされた耕作地を眺めながら、悔しそうに語る。現場には侵入防止用のネットを設置していたが、くぐり抜けて入ってきたとみられる。収穫を断念せざるを得ないイノシシの“暴虐ぶり”に集落の住民は憤りを隠せない。

イノシシによる主な被害は水稲、野菜、果樹などの食害や踏み荒らし、掘り起こしで、県の鳥獣被害額の中では最も割合が多い。次いで多いシカも農業被害に加え、造林の枝葉の食害や樹木の樹皮剥ぎ取りなど林業被害を及ぼしている。昨年度の県の鳥獣被害額3億4,600万円のうち、約8割がイノシシとシカによる被害だ。

こうした現状を打開するため、県は2007年に県庁と各振興局に有害鳥獣対策プロジェクトチームを発足。

  (1)鳥獣害対策専門指導員の配置、鳥獣害対策モデル地区の設定など集落環境対策
  (2)防護柵などの設置を助成する予防対策
  (3)狩猟期間の延長、わな設置数の上限撤廃など捕獲対策
  (4)獣肉処理施設の設立を支援する獣肉利活用対策

以上の計四つの対策を柱として、被害軽減に取り組んできた。

中でも捕獲対策は功を奏し、同年以降、イノシシやシカの捕獲頭数は順調に伸び、昨年度はイノシシ2万6,178頭、シカ2万3,651頭の捕獲を記録した(いずれも過去最高)。

一方で、鳥獣被害額は依然として3億円台で推移していることから、県が今回、より効果的な被害軽減を推進するため、市町村や農林業団体と協力して新設したのが「鳥獣被害対策本部」だ。また、各振興局に現地対策本部を設け、被害防止行動計画の策定や野生鳥獣の学習、防護柵の正しい設置方法の指導などを通じて、鳥獣から農作物を守る「戦う集落」の育成をめざす。

この「戦う集落」のモデルケースとなっているのが、玖珠町古後の原、専道、梶原の各集落。ここでは、集落全体を取り囲むように防護柵と電気柵を張り巡らせて、野生鳥獣の侵入を防いでいる。05~09年度にかけて集落ぐるみで柵を設置し、費用は「中山間地域等直接支払制度」の交付金や県・町の補助金、住民の自己負担金から賄った。柵の維持・管理も住民が協力して行っている。

『住民協力で被害ゼロ達成地域も』

こうした取り組みにより、集落の鳥獣被害は劇的に減り、昨年は被害ゼロを達成。耕作地を毎日見回る手間もなくなった。また、柵外の2カ所に囲いわなを仕掛け、イノシシとシカの捕獲にも成功している。3集落の鳥獣被害対策の責任者である島津益夫さんは「地域一体となって住民が協力し合うことで成功できた」と笑顔で語る。

野生鳥獣の侵入を防ぐだけではなく、個体数を減らすことも鳥獣被害対策においては重要だ。県は狩猟解禁日(今月1日)に先立ち、先月16日にイノシシとシカの県内一斉捕獲を実施した。姫島村を除く県内全17市町と地元の各猟友会が協力して行ったもので、こうした県単位の一斉捕獲は全国初の試みという。

当日は猟友会員951人が出動し、イノシシ78頭、シカ159頭の計237頭を駆除。「最低でも100頭」としていた県の目標数の2倍を上回る結果となった。鳥獣被害対策を所管する「県森との共生推進室」の高宮立身主幹は「関係者の協力により、予想以上の成果を挙げることができた。今後、定期的な実施についても検討していきたい」と鳥獣被害の根絶に意欲を見せている。

集落全体で取り囲む防護柵と電気柵を張り巡らせてある状況視察しました。

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